木賊山

形式:舁山

巡行順番:8番目 山五番(令和5年)

稚児:―

御神体:木賊翁

主管:木賊山保存会

住所:京都市下京区東仏光寺通西洞院西入

公式サイト:―

謡曲「木賊」に取材し、我が子を人にさらわれて一人信濃国伏屋の里で木賊を刈る翁をあらわしている。

御神体(人形)は腰に蓑をつけ、左手に木賊、右手に鎌を持つ。木彫彩色の頭は仏師春日の作といわれ、足台には「元禄五年(1692)六月吉日」の墨書銘がある。

水引は日輪鳳凰文様の綴錦及び道釈人物刺繍、前懸は唐人交易図刺繍、左右の胴懸は平成11~13年に復元新調した中国故事人物図の綴織、見送は中国明代の牡丹双鳳文様綴錦である。

欄縁金具は緻密な雲龍文様で、角金具は唐団扇、木賊と銀兎文様のものが用いられている。

旧見送として仙人聞香図の綴錦があり、旧水引には中東幾何文様イギリス織絨毯、他に緑地草花文様の後懸などが保存されている。

木賊山 | 山鉾について | 公益財団法人祇園祭山鉾連合会 (gionmatsuri.or.jp)

 世阿弥作の謡曲『木賊』から着想された山。

生き別れた父を探す松若は、故郷信濃国園原で木賊(砥草。物を磨くのに用いられる植物)を刈る老人の家に泊まる。

老人は、別れた子に巡り会うがために旅舎を作り旅人を泊めていると語り、松若に酒を勧めながら我が子の好きであった小謡曲舞を、子を偲びつつ舞う。

実は老人は松若の父であった。

御神体は、子を思い1人寂しく木賊を刈る老人の悲しみを深く表現した名作で、桃山時代に作られたといわれている。

江戸時代の記録には「木賊刈山」とも記される山です。

その名が示すように御神体が右手に鎌、左手に木賊の束を握っており、欄縁の上部にも御神体を囲むように木賊が配されています。

角房掛金具は兎を、欄縁金具は蝙蝠をそれぞれあしらった優れた構図のものです。

前掛、胴掛、見送はどれも彩り豊かな逸品で、それら装飾品と御神体の悲しげな表情の対比が見所です。

京都市下京区役所:山鉾の魅力細見・山鉾由来記 (kyoto.lg.jp)

謡曲「木賊とくさ」の意匠をあらわした、秋の風情を持つ山

木賊山は、世阿弥の作といわれる謡曲「木賊」を題材とした意匠をもつ山です。

「木賊」は、信濃国で木賊を刈る翁が、生き別れになった子を慕って舞を舞うという物語で、親子の再会が主題となっています。

木賊山には、別れた子を思いながら木賊を刈る老翁の姿が、御神体人形として搭載されています。

鎌を持つ御神体の周囲には、青々と棒状に起立した木賊の様子が表現されており、祇園祭に登場する山鉾の中でも特徴ある情景を演出しています。

木賊山を飾る品々にも特徴的なものがあります。

胴懸には杜甫の詩「飲中八仙歌」を題材とした「松蔭仙人図」と「仙人観楓図」が描かれた綴織が用いられるほか、前懸の「金地綴錦唐人市場交易図」や見送の「牡丹鳳凰雲文綴織」は緻細な表現が見事な懸装品です。

そして、山の周囲を飾る水引には、蝦蟇仙人や寿老人や西王母などの姿を中心にした絵が刺繍であしらわれ、豪華さを際立たせています。

また、木賊に兎と波文様を鍍金であらわした見送房掛金具や、軍扇の形に木賊と兎の文様をかたどった角飾金具などは、木賊山ならではの造形美を誇ります。

この展覧会では、京都が最も美しく彩られる秋にちなんで、秋の季語である「木賊刈る」を彷彿とさせる物語の「木賊」に取材した、木賊山の名宝を紹介します。

木賊山とくさやまと「木賊とくさ」の物語

木賊は「砥草」などとも書き、研磨材として昔から珍重されてきた植物です。

秋になると生育した木賊の青く強い茎を刈り取り、乾燥させて用いました。

木賊山の意匠の題材となった謡曲「木賊」には、信濃国園原でひとり寂しく木賊を刈る老翁が登場します。

彼は過去に愛する子と別れ別れになっており、その子が好んでいた舞の所作を思い出しながら

「木賊刈る 山の名までも 園原や 伏屋の里も 秋ぞ来る」

と謡うのです。

この歌詞には元歌があり、それは平安時代の人物である源仲正の「木賊刈る 園原山の 木の間より 磨かれ出づる 秋の夜の月」であるとされています。

「木賊」は、生き別れになった親子の再会の物語ですが、その背景となった歌には秋の季節が巧みに詠み込まれています。

木賊山のしつらえの中には、木賊に兔をあしらった飾金具や、真松に吊り下げられる満月を模した月形などがみられます。

源仲正の歌にも見られる「・・・よりみがき出ぬ 秋の夜の月」にもあるように、秋に刈り取られる研磨材である木賊から、みがき出されたような美しい月を連想させ、そして月にゆかりのある生き物の兔へとつながるのでしょう。

歌の心を知る人にはその隠された季節感を感じ取れる演出が、木賊山には用意されているのです。

祇園祭-木賊(とくさ)山の名宝- – 京都府京都文化博物館 (bunpaku.or.jp)